ジャングルを見下ろすと小さく部下たちが見えた。高い高い塔の上。ルファは、紅に染まる風を浴び、ずっと遠くの魔王城を眺める。そこで討伐隊どもと魔王が戦っているのだ。
実に、無駄な戦いだ。魔王の勝利は決まっているというのに。
遠いあの日を思い出す。ルファはかつて、魔物の王を目指したことがあった。エルフは精霊たちと同じく、人間と魔物の中間に分類される曖昧な種族だ。そしてこういう種族こそが、最も戦闘に長けている。だから自信があった。ルファはエルフの中でもずば抜けた力を持ち合わせていたのだから。
しかし、魔王は圧倒的だった。ルファを遥かに凌いでいた。
あの化物には一生勝てない。だからルファは、討伐隊員の差し伸べた手を、振り払ったのだ。ミドリは取った手を。
ミドリのいない内にジャングルを制圧することもできるが、その必要はない。どうせ彼女は帰ってこない。魔王城から広がる紅の空をその身に感じ、時を待つ。
――しかし。ルファは目を疑った。身を乗り出して空を見る。魔王城の上空が青色に染まっていった。まさか、まさか魔王が? 違う! 魔王が負けるはずがない。空が晴れていく。魔物のセカイが終わる? 嘘だ。ありえない。
ルファは足を踏み外した。