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うみ


 風鈴の音色が、海辺のかおりと混ざって残る。聴覚と嗅覚を楽しみながら味わうブルーハワイ味のかき氷は、ここが海だ、ということを否応なく感じさせた。
 海の家とでもいうような浜辺の家屋で、かき氷を口に運ぶ。みんなは海に出ていて、屋根の下で涼んでいるのは私ひとりだった。風鈴が風に踊り、遅れて海のほうから嬌声が聞こえてくる。
 海に足だけつけているテミは、麦わら帽子がとても似合っている。その近くでブルースとジルバが水をきゃっきゃとかけあっていた。
 彼は……ブロントは、ビーチパラソルの下で寝転がってケータイをいじっている。
 誰と連絡しているの。海にまで来て、きみは誰のことを考えているの。
 彼にカノジョができたんだ。その疑惑は日に日に私の中で大きくなっていく。
 彼がSNSで誰とどんなやりとりをしているのか、いつも私は監視していた。昨日はテミとジルバにくだらない返信を送っている。でも一昨日は、きみは非公開のアカウントに向けて返信を送っていたね。相手が非公開だから、ブロントがその人とどんな会話をしていたのか、私にはわからない。
 わからない。
 あれは誰。
 海の家は炎天下のはしっこのように影になっていて涼しかった。まるで私をあの海から遠ざけているみたいに。ブロントから離そうとしているみたいに。わだかまりが膿になっている。
 泣いてしまえ。
 潮風が赤毛を撫でる。かき氷はとうに溶けていた。


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