第一章 [目次]


  二
 シャープペンシルを走らせる。つい最近に初老を迎えた教師が、いきいきと黒板に化学反応式を書いている。ぼくはそれをノートに写す。シャープペンシルは目で追わない。結局それはぼくの意思で動いているのだから、目を離したくらいじゃ逃げ出さない。
 ぼくは化学が好きだ。説明のつきそうもない現実を分析していく化学が好きだ。板書しながら、ぼくは文字列の意味を吟味する。ほかの子は、たぶんそんなことしない。ただなにも考えずに書き写すだけ。ぼくだって、英語や国語の授業ではそうだ。
 窓の外では、相も変わらず雨が降り続いていた。昨日に引き続き、今朝からとまっていない。装填する隙を見せることなく、雨は撃たれ続けていく。誰を狙っているんだろう。
 昨日は、雨は帰り際にやんでいた。たぶんそれから今朝までが、装填の時間だったんだろう。大気中の凝結した水蒸気、水が重たくなって落ちてくる。きっとそうなんだろうけど、この雨はどうしてもふるい落とすようなものには見えない。
 授業終了のチャイムが鳴った。化学担当の教師はなにも言わずに、チョークを受け皿に置いた。それを合図に、副会長が起立と言う。礼。
 授業が終わっても雨はとまらない。当然といえば当然だ。ぼくは次の授業の用意を机に置いて、トイレに向かった。昨日の五人組がドア付近にいて、通るのがとても大変だった。それなのに向こうは「ごめん」と一言だけで、ぼくが廊下に出たときには大声で会話を再開する。いや、そもそも停止していないから、再開するのではなくて続行する。
 廊下は思ったよりも肌寒かった。腕の細かい毛が、涼しさに撫でられて震えている気がした。時期として梅雨はもう過ぎたはずなのに、ここ二日間だけ、切り取ったみたいに梅雨だ。そのくせして、じめじめした感覚はない。暑さは漂っているけれど、それは体の内にこもる暑さだった。夏の熱気も、雨に押されて人の体内に逃げ込んでいる。
 高一A組の教室は学校の二階にある。二階の、東側だ。東から西にかけて、A組、B組、C組が並んでいる。C組のさらに西側には音楽室がある。防音は強くないようで、たまにA組の教室にまでメロディーが届くことがある。古い校舎だというわけではないはずなのだけれど、まあ、予算上の都合もあるだろうし。
 ぼくは音楽室のところまで歩いた。音楽室の向かいにトイレがある。壁にぽっかり隙間が空いていて、入って左側が女子トイレだ。女子トイレには幸い、誰もいなかった。電気が点けられていなくて、ぼくはその状態のままにして閉じこもる。電灯を消したままにしておけば、誰かが来たとき分かるからだ。ぼくと一緒で、電灯を点けようとしない人なら意味がないけど。
 雨はやまない。昨日からまるで、なにかを待っているみたいだった。なにかが訪れるまでは、ずっと降り続いてやるぞ。空がそう言っている気がした。
 じめじめしていないくせに、あたりは暗い。ぼくのまわりだけでなく、向こうも、あっちも、全部暗い。教室に戻ってもそれは同じだ。いくら蛍光灯が光り輝いても、それを空が吸い取ってしまう。吸収して、吐き出さずに雨に変換してしまう。それを解決する術を、ぼくはどうしても考えることができなかった。
 自分の机には、きちんと用意した教科書類が置かれていた。誰も触らなかったみたいだ。ほっと息を入れて安心する。だけれどそんな顔を見られてはまずいから、無表情に徹しての安堵だ。ぼくは次の授業の準備物を持って、また教室を出る。もうドアに五人組の姿はなかった。たぶん、もう美術室へ行ったのだろう。
 美術室は三階にある。ちょうど音楽室の上の位置だ。
 ぼくはさっき歩いた廊下を再び歩く。上履きの鳴らす足音が鬱陶しい。誰かの耳を不快にさせていないか不安になった。腕の細かい毛が震えてる。
 音楽室は広めで、その向かいにはトイレの他に、もうひとつ小さな部屋がある。高一Aの教室と比べたら、だいたい、五百円玉と一円玉くらい大きさが違う。その部屋が、高二文系特進科の教室だ。机は教卓を除いて五つしかない。特進科へ入るのを志望する生徒のうち、一年の間の成績が芳しかった人が入ることができる。
 その教室の横にある西階段を上って、三階へ赴く。踊り場にある小さな窓が、ほんのり灰色に陰っていた。空に目をつけられた気がして、無視するつもりで三階にまで到達する。着いてから振り向いても、その小窓に顔は見えなかった。
 美術室にはもうほとんどの生徒が座っていた。少し驚いた。数人の生徒が、入ってきたぼくを見た。胸が引きつった。息をとめたまま適当な席に座った。美術室では席は自由だ。
 だけれどたいがい、誰がどこに座るかは相場が決まっている。いつも違った席に座るのは面倒臭いからだ。大きめの机が六つ佇んでいる。縦に二つ、横に三つ並ぶ。二かける三で六だ。よく目に付く五人組は後ろ側の真ん中の机を占領している。その両端に女子のグループがおのおのできている。前のほうでは、廊下と反対側の机二つに男子のグループが形成されている。前の廊下側、そこが余りのかき集められた場所。ぼくはその一端に座っている。
 だけれど、余りの中でも小さなコミュニティは成り立っている。ぼくを除いた四人は、いわゆるオタクという人種で、陰湿としながらも楽しそうに集まっている。うち一人は女子なのだから、もっとよく分からなくなる。その女子とはあまり会話しない。
 授業開始のチャイムとともに、美術の教師が入室してきた。暗いエプロンを羽織っている。長い黒髪を後ろで結わえている。起立、礼。いつものように会長がかけ声をする。ぼくもみんなも声に従う。冷静に考えてみると滑稽だった。
 教師が、今日することを説明する。説明といっても、先週の続き、としか言わなかったけれど。言う間に、全員のところに彫刻刀が支給された。遅れて鏡もやってくる。オタクグループの女子が、みんなの持ってくるね、と言って席を立つ。普通よりも大きめの教卓の上には、生徒それぞれの、制作途中の作品が積まれていた。女子が数枚の板を持ってくる。中にぼくのものもあった。造作もなくはい、と差し出してくる。なにか言おうとしたけれど、喉がつっかえて上手く言えなかった。だけれどその女子は、ぼくが板を受け取るのを見ると、涼しい顔で顔を逸らす。ぼくが感謝を言うか言わないかなんて、彼女にとってはどうでもいいんだ。
 板に彫られているのは、自分の顔。鏡を見ながら自分の顔を模するのが、ここ数回の美術の課題だった。みんなさっそく、作業に取り掛かっている。一部の人は未だにおしゃべりを続けて、彫刻刀を持とうとしないのだけど。
 ……ぼくは美術が苦手だ。独特の感性というのが、よく分からない。個性というものはDNAと環境によって確約されているはずなのに。それをわざわざ前面に出すのは、いったいどういう動機なのだろう。それでもぼくが美術を選択したのは、今まで会ってきた理科系の先生が、みんな絵が上手かったからだ。きっと生物学で細胞でも模写したり、回路なんかをたくさん図示したからだ。それならぼくも、先代を追って絵が上手くなってなきゃいけない。そのほうがきっと役に立つ。そういう気持ちで、入学当初、音楽ではなく美術のほうに丸印をした。
 自分の顔に、刀を入れる。確かな手ごたえがあった。木屑が丸まって跳ねていく。
 雨はまだやまない。いったいどこから、そんなに多くの水を集めたのだろう。どこから引き出したのだろう。不思議でならない。なにをそんなに頑張ることがあるのだろう。
 窓を眺めていたということは、つまり、向こうの二つの机を眺めていたことになる。そのうちの男が、ちらちらとぼくに視線を送っているのが分かった。気持ち悪かった。ぼくは自分の顔に目を落とす。
 肩に届きそうで届かない髪。毛先はそれぞれ、糸を通す針みたいに鋭い。鼻が低い。
 彫刻刀を揺り動かす。たまにつっかえて手首が痛くなる。刀を持っていないほうの手が、ちょうど刀の向く先にあって慌てて正した。それで板がずれて、変なところを削ってしまう。変な顔。
 また顔を上げてみた。先ほどの気味の悪い男子は作業に頭を捧げている。少し安堵して、その間に窓の様子を眺めてみた。雨はまだ、やみそうにない。窓は閉め切っているからにおいはとどかないけど、たぶん、昨日と同じようなものだろう。くすぐったいにおい。
 美術室では、腕がそばだつことはない。暖房も冷房もついていないけど、ドアと窓が閉じ込めてくれてはいる。外界の攻撃から一応、守ってくれている。それだけで充分だ。雨は隙を探って、大袈裟な音を立てて降り続いている。
 あ。
 声を出してしまった。小さく、声を。
 目を逸らしたのがいけなかった。余所を見るときは手元を休ませるべきだった。彫刻刀はシャープペンシルではない。自分の意思を逸脱することが、わりとよくあるんだ。
 指先から、紅い血液が滲み出てくる。まるで風船みたいに膨らんでいた。あ、血ぃ出てるー。同じ机の女子が、本当に他人事だと思うような口調で言う。教師が駆けつけてくる。近くまでやってきて、過剰に大丈夫かと訊いてきた。教師は大変だ。これくらいの傷で責任を押し付けられないか気が気でならないんだろう。
 大丈夫ですとぼくは答えてから、拭くものを求めた。すかさずティッシュを持ってくる。それで指先をくるんだ。やわらかい紙が紅く染まる。水分を受け取った綿飴みたいにしぼんでく。
 美術の授業が終わった。起立、礼。副会長がぞんざいに言う。
 階段を下りる。踊り場が雨で濡れていた。小窓がいつの間にか開いていたからだ。手すりをしっかり持たないと、ふと誤ると転んでしまうかもしれない。
 二階に下りて、兄貴の教室の前を通る。中身をふと見てみると、兄貴とそのクラスメイトさんが談笑しているのが見えた。兄貴のくせに、ぼくの兄貴のくせに友達付き合いは良好だ。
 上履きが濡れているのがよく分かった。ぼくが歩くごとに廊下が汚れた。だけどそれを指摘してくる人はいなかった。上履きが踊り場の水のせいで汚れたのは、ぼくだけではないからだ。
 夏休みどうしよっかー、あー、なかなか決まんないよなぁ。後方から声がする。昨日からよく聞く、五人組の会話だった。どうやらまだ、夏休みの計画は煮詰まっていないらしい。やっぱ海行こうぜ、えーやだよー、やだやだばっかりじゃ行くとこねぇじゃん、夏休み長いんだから全部行っちゃえば……、ちょっとそれはハードだよ。臆面もなく楽しげに。テンポのいい会話を繰り広げている。
 教室に入ると、既に音楽を選択した生徒たちが戻っていた。美術を選択した生徒が三十人程度であるのに対し、音楽を選んだのは五十人に達する。音楽・美術は三組合同で行われる。今年度はそうだけど、今の二年生は美術のほうが多いらしい。要は確率の問題で、学校側も特視していないみたいだ。
 夏休みまであと六日だ。
 なにをしようか、どうしても思いつかない。化学しかない。
 ふと、兄貴のことを思い描いた。まるで彫刻でかたどられたみたいに浮かび上がってくる。兄貴は、友達が多い。少なくともぼくにはそう見える。人気者ではないけれど、きっとほとんどの人が兄貴の存在を認めている。すれ違えばその人が誰であるか分かる。兄貴はそんな人間だ。いうなれば有名の度合いでいえば中流階級の人間だ。その兄貴は、夏休みの予定はどうなっているんだろう。聞いてみたい。
 途端にチャイムが鳴った。次の授業が始まる。今日の最後の授業だ。英語の授業だ。
 男性教師が辞書を携えて入ってくる。いつも持ってきているけど、それを用いる瞬間をぼくは、まったく見ない。一ヶ月に一度見るか見ないかだ。それぐらい英語の教師は、頭の中に辞書を抱えているし、生徒たちも無用な質問をしてこない。英語の授業は好きじゃない。
 教師が黒板に筆記体を書き始めてさっそく、ぼくは窓の外を見遣った。雨は依然として降り続いている。だけどさすがに疲れてきたのか、雨脚はだいぶ弱くなっていた。それでも傘が必須なのは変わりそうもない。ただ頑固に、雲が水滴を捻出している。それほどまでして、いったいなにを望んでいるんだろう。
 灰色の雲と雲。それは重なって大きな雲に見える。というよりも、一つの灰色の空に見える。たぶんこの雨は、空の青い成分だ。ぼくはそう気付いた。空が灰色なのは、こちらの弾丸数を相手に悟られないためだ。灰色に青を隠して、残りの数も晒さないまま打ちひしぐ。相手の気力を打ちひしぐ。
 教師が、ぼくを指名した。ぼくが気付いたときには、もう二度目の声かけだったそうだ。教師はいらいらした口調で、教科書の一部分を読むように指図する。ぼくはそれに従った。決して、発音は上手ではない。むしろ下手だ。
 この前、面白い話を聞いた。英語を発言していると、ふとそんなことを思い出す。化学の時間に、先生が雑談していたのだ。日本人は、スペイン語の発音が世界で一番上手な国らしい。もちろん、スペインに次いで、という意味で。発音の形式が似ているのだそうだ。……だけれど同時に、日本語は、世界で一番英語の発音が下手な国でもある。これはアメリカにもイギリスにも次いでいない。本当の意味で、世界で一番だ。
 読み終えたら笑いが込み上げてきた。一生懸命にそれを押さえ込める。肩が震えていた。教師がそれを見て悪態をついていた。隣の席の子が、ぼくのおかしな動向に視線を伝えている。きみ、変だよ。その子の目は、しっかりとそう伝えていた。とばっちりを受けて、続きの部分をその子が読まされた。だけどその子は嫌な顔しない。どうでもいいんだ。発音が悪いことなんて気にせずに、適当に読み上げていく。ぼくは、その姿が、純粋に羨ましく思った。
 その子が読み終わると、次はその横に移った。
 授業が終わって、終礼もすぐ終わった。夏休みまでは、特にすることはない。生徒も先生も、みんなそうなんだ。どんよりと低空飛行したままの雲。そんな時分の中で、窓の外だけがせわしなく働いていた。
 ぼくは鞄を持って、西階段へ向かった。下駄箱へ行くには東階段のほうが近い。だからほとんどの生徒は登下校のとき東階段を利用する。その混雑した状況をぼくは嫌った。だからたいてい、東のほうが込み合いそうなときは西階段を利用する。ぼくみたいな考えをする人は、案外、少ない。
 階段を下りる前に、ふと、三階へ続く踊り場を見上げた。窓は開いたままで、そこはもう水浸しだ。誰も拭き取らないのは、夏休み直前の怠惰のせいだろうか。それとも、ただ気付かなかっただけだろうか。
 ちょうどそのとき、階上から声がした。兄貴の声が。兄貴はどうやらさっきまで、三階か四階で授業を受けていたらしい。
 兄貴が踊り場にまで下りた。兄貴の横に、先輩がいる。兄貴とクラスメイトの、長い髪のあの女性だ。昨日、廊下を通り過ぎるのを見かけた人だ。
 二人は別に、なにか話しているから隣り合っているわけではない。ただ単に、意識することもなく横合いになったみたいだ。教室が同じで、同じ授業をさっきまで受けていたのだから、不思議なことではないかもしれない。ちょうど、兄貴の後ろに数人の先輩もいるし。
 だけど――。
 先に足を滑らせたのはどっちだったのだろう。たぶん、女子の先輩のほうだったと思う。足を滑らせて、隣にいたクラスメイトの肩を咄嗟に掴んで。
 鈍い音が連なった。転がり落ちる様子はまるで、へこんだ形のボールのよう。目まぐるしく兄貴と先輩が、上に下に転がっていっている。
 それは一瞬のことではなかったけれど、ぼくはどうしても動き出すことができなかった。先輩が唸る。良かった。二人とも意識はあるようだ。二人が上半身を持ち上げる。まだ足が絡まっている。
「ったく、いってぇな」
 そう発言したのは先輩のほうだった。力強い口調に、ちょっぴり驚いてぼくの脚が震える。
 先輩が頭を掻く。だけどふいにとまった。
「ん……?」
 先輩は、自分の髪を指で梳いた。どうしたのだろう。転んだせいで変に乱れてしまったからだろうか。
「へ?」
 その様子を見て、今度は兄貴が口を開けた。ぽかんと、なにが信じられないのか、先輩の顔を凝視する。もう半年間ぐらいクラスメイトでいるはずなのだから、一目惚れをするタイミングではないのに、兄貴は先輩に見入っている。
 大丈夫かー、と呼びかけた他の先輩たちも、二人の異変に感づいたようだ。二人を取り巻いて、不思議そうな顔で覗き込む。
 兄貴だけでなくて、先輩も呆けた顔をしている。見つめ合って、絡まった足をほどこうとしない。電池の切れたロボットみたいに、二人はじっと見つめ合っていた。
「おい寺本」
 男の先輩が兄貴に呼びかける。兄貴ではなくて先輩のほうが、声のほうを向いた。
「絢?」
 高二文系特進科のもう一人の女子が、先輩の肩をぽんと叩いた。どうやら、兄貴と一緒に転がった先輩は、絢という名前らしい。よく見かけるけど名前を聞いた覚えがなかったことに、今頃気付いた。けれどそんなことは今は問題ではなかった。
 絢さんは自分が呼ばれたことに気付かなかったみたいだ。クラスメイトに呼ばれても応答しないで、兄貴の顔を、首を吊ったぬいぐるみみたいな扱いで眺めている。
「と、とりあえず保健室だ」
 先輩の一人がそう言った。そうだ。もしかしたら、頭を打ったのかもしれない。兄貴の脳がおかしくなったら大変だ。夏休みの計画が一気に埋まってしまう。
 ぼくは先輩たちと一緒に、兄貴と絢さんを保健室にまで連れていった。二人とも力が抜けているけれど、意識だけはちゃんとしてるみたいで、わざわざ運ぶ必要はなかった。ちゃんと自分たちで歩いていた。……だけれどなにも喋らなかった。起き上がったとき絢さんが言った「ったく、いってぇな」という文句だけが、まだ頭の中で木霊している。
 保険医の先生が診るに、頭には特に損傷はないらしい。外傷のない、内側だけの怪我がある可能性もなくはないけど、とても低いんだって。二人はひとまず保健室で安静にさせることにした。他の先輩たちは、特進科だからまだ授業がある。ぼんやりとした顔の二人に声をかけて、教室に戻っていった。
 ぼくは保健室に残っていようと思ったけれど、保険医の先生が帰りなさいって言った。こういうときは普通、外部の人は入れないものなんだって。安眠の邪魔になるだろうから。
 傘を持って、ぼくは下校することにした。校舎の玄関を出る。
 雨はすっかりやんでいた。