おりじなる小説MAKER B面


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0.

「ぅーいえい!」
 第一声がそれだった。
 僕の運命の人との初対面……
 ――丸潰れじゃねえか。
 奇声を発した僕と同年代の少女において、
 黒髪、三つ編み…①
 んでもって小顔…②
 さらにはチャイナ服…③
 ここは日本。の大都市。の駅前…④
 ③、④により、僕は彼女を変人だと思った。
 さらに、①、②により、かわいいと思った。
 よって、彼女=リンである。
 てな感じで、つうか意味分かんないが、彼女を観察してると(変態)、彼女がなぜかこちらへ寄ってきた。
 いえ。この時まだお互いに存在しか知らない――
「よっ」
 彼女は気軽に僕に声をかける。
 んで、へへん、と胸を張る。
 いや、そういうポーズできればとってほしくないな。
 目線がそっちにいってしまう。
 ついでに周りの目線も気になる。
 なんせ、こいつ――
「人気アイドル高嶺リンとは、私のことよ。あんた、私、見てたでしょ」
「…………」
 っち。u17のリンに対するキャラ設定は、複数あるんだな。
 関西弁じゃねえ……。
 自意識過剰だー。
 てか、アイドルだー!
「私のこと、見てたでしょ」
 彼女は繰り返す。
「いや、観察してただけだ」
「は?」
「ちょっと、描写の練習」
「は?」
「いや、観察して、それを字で表すっていう――」
「は?」
「いやぁ。できれば同じ台詞を繰り返さないでほしいな。いや、書くほうはそりゃ楽だろうけど――」
 蹴られた。
「どぅえっ」
「キモい効果音出すなっ!」
「ナイス突っ込み!」
「いえ~。てアイドルになにやらしとんじゃ!」
 ノリ突っ込みの出来るアイドルだった……。
「まあ、リン様の寛大な処置により、今回は許してあげましょう。で、何? 描写?」
 彼女は、右手の人差し指をピン、と伸ばし、僕の鼻先のあたりに近づけ、左手は腰に添え、上半身だけ前のめりに傾け、上から目線の実質下から目線の上目遣いでそう訊く。
 ……、いちいち面倒臭いポーズとんなや。
 ここ、駅前。
 人だかり。
「次回作にちょっとだけ手詰まっててね。こうして気晴らしにゴミみたいに人がいるところへ来てみたんだ」
 ふーん、と腕を組んで納得したような理解できてないような態度をとる。
「うーんと……よくみたら、あんた、どこかで会った?」
「うん? 初対面のはずだよ」
「いや、どっかで会った気が――」
 5秒。
 4秒。
 3秒。
 2、は飛ばして、1秒。
 んでもって、0。
「ぴっこーん!」
 急に効果音を発声するリン。
 ……、そこはまあ突っ込みなしで。
「あなた、ブルースね!」
「うん? まあそうだけど……、もしかして今まで気づいてなかったの?」
「うん」
「………………………」
 ええぇ。ちょっとショック。
 この――超人気若手作家、向坂・ブルース・喜助を2分43秒もの間忘れていただと?
 あ、今回の設定上ブルースはミドルネームになっております。
「なんだ。あなた芸能人じゃない。私よりは劣るようだけど」
 そういえばいつのまにか「あんた」から「あなた」になってる……。
「突っ込み屋」
「うん?」
「君は――三つ編みね」
「ちょ、何言ってんの?」
 今度は左手をパーにして、よわよわしく前に出すリン。いままでの行動により推測するに、おそらくは両利きだろう。
「何。作家っていつもこんな変態じみた観察してんの?」
「……………………」
 心を読まれていた。
 まあ、いいか。
 そう言って彼女は手を――左手を差し出す。
「?」
「握手」
「?」
「握手だってばぁ」
「?」
「いや、おんなじ台詞繰り返さないでほしいんだけど」
「握手ってさあ、利き手にかかわらず、右手でするもんじゃないの?」
「知らん。さっさとよろしくせえ!」
 彼女は、びっくりするくらい握力がハンパなかった。
 これが、彼女と僕の初対面。
 これが、楽しくて――
 これが、嬉しくて――
 これが、恐ろしくて――
 先に言っておこう。
 これはまあ描写の不足している駄作、いやそれ以下の小説である事は認めるが、そんじょそこらの恋愛小説と一緒にしてもらっては困る。
 これは、静寂の物語。
 これは、陰謀の物語。
 これは――殺人の物語。

 それから半年が経って――

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