〇‐深い霧のなか(前)
プリイザヤ紀元二〇〇六年 〇一一一度
深い、深い霧のなか。暗闇につつまれて少女は思う。私は孤独だ――と。その変えようもない事実を、彼女は今更になって実感する。深い霧のなか。
暗黒星雲の内側は、決して暗黒ではない。そこは地球の雲のように、ほどなく明るく、ほどなく暗い。彼女はいつか見た、うごめく大きな毛布を思い起こした。魔法の絨毯のようなあの生物は、今、生存しているのだろうか。彼女にはわからない。
すべて優しくつつまれて、ずっと眠ってしまえばいい。終わりを知らずに待っていればいいのに。なぜ生物は進化してしまうの。永遠に環境が変わらなければいいのに。すべてこのままで良かったのに。
彼女の思考がとめどなく、雲から漏れて流れてゆく。それら情報波は光子よりも小さな質量で、広大な宇宙を走った。
暗黒星雲のなかはまるで揺りかごだ。彼女は、出発当初にいだいていた希望も忘れ、絶望を身にかかえて、明るい暗闇のなか顔をうずめた。