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*四


 今度は五人で公園に出向いた。これで最後だ。そのころには筆者たちは、彼女の正体がスライムであることに半ば確信を持っていた。しぶい顔をしていた聖職者も、青髪の力説で不承不承ではあれど頷いてくれた。
 いわく、あれはスライムの一匹狼なのである。スライムは前述のとおり「集合的意識」を有する特異な生物だ。本来は一匹だけで行動するなんてことはありえない。ありえたとしても、そのスライムの行動は他のすべてのスライムが認知することができ、そのスライムが見聞きしている情報もすべてスライムたちの集合的意識のなかで共有することができる。
 しかし生物に突然変異はつきものだ。スライムは多くの微生物と同じように、無性生殖と有性生殖両方の方法で個体を増やすことができる。そして有性生殖で誕生したスライムであるのなら、それがスライムであっても突然変異、「集合的意識」を持たない特異な形質のスライムが生まれることもあるはずだ。あくまで仮説にすぎないが、この限られた条件のなかで導き出される、もっとも可能性の高い答えがこれなのだ。きっと、そうに違いない。
 ぼさぼさ髪の髪の敵討ちだ。筆者たちは作戦にかかった。相手は所詮スライムだ。戦い方を間違えなければ倒せないことなんてない。あのスライムは人間の姿をするために粘膜にかなり無理をしているように見える。ほぼ体液だけで体を形成しているのではないだろうか。生まれつき粘膜が薄いのだろう。だからある程度体の形を作り変えることができた。
 筆者は魔王討伐後も常備している小型火炎銃を握る。触った衝撃で水になり、逃げられてしまうのであれば、触らずに倒せばいい。この五人のなかでそれができるのは筆者だけだった。スライムが筆者を見つめる。筆者はスライムを見つめ返した。いち、に、さん! 昔のことを思い出して手を突き出し火炎を放出する。
 はずが、ただ常備しているだけでメンテナンスなど長らくする必要のなかった火炎銃は、もう、うんともすんともいわなかった。
 どこからか笑い声が聞こえる。あの空耳だ。目の前のスライムは、顔色ひとつ変えずに筆者を見つめている。笑っているのはこのスライムではない?
 スライムに矢が刺さった。また刺さる。立て続けに粘性の強い水を打ち崩してゆく、矢。
 振り返ると彼が――違う、これは物語ではないのだ、そんな劇的なことは起こらない。矢を放ったのは白髪だった。筆者が失敗することを想定していたのか。筆者は歯を食いしばっている青髪と同じ顔をした。聖職者はあくびをしていた。はげ頭が剣を振りかざす。スライムは間隙のない攻撃の連鎖にただ揺れているばかりだった。水になることもなくただ女性の姿のままなされるがままになっていた。笑い声がする。今度こそはっきり聞こえた。そしてはっきり聞こえると、その声の主もまたとてもなじみのあるものだということに気付いた。
「なんでここにいるの」
 名前を言うよりも先に、ついて出てくる言葉。筆者の呼びかけに、そしてその相手の登場に、いいや、それ以上の登場に、はげも白髪も攻撃を止めた。スライムは消えなかった。
 妖精が笑う。妙に耳につく笑い声は、旅の間も少し嫌いだった。いたずら好きそうな顔をうかべてにしにしと笑っている。そしてそれよりも驚いたのが――。
「ようみんな。久しぶりだな!」
 妖精を肩に載せている、リーダーだった。
「い、いままでなにしてたのっ」
 誰にもなにも言わずに、ふらっといなくなって。
 スライムが、歩いた。
「そう怒るなよ。会いに来たじゃないか。こいつでおまえらをおびき寄せてな。まるで罠みたいだ」
 スライムがリーダーと肩を並べる。並ぶとどこか、顔が似ている気がした。
「おまえら考えてもみろよ。こいつはただ立っていただけなのに、勝手に攻撃してきて怪我してるのはそっちじゃないか」
 リーダーがスライムの肩に腕をまわす。そんなことしたら腕が焼けてしまうのに、リーダーは顔色一つ変えやしない。
「こいつは俺の新しい仲間なんだ」
 スライムが仲間?
「そんで、あたしは古くからの仲間だね」
 妖精が言う。
 なんの。なにが。
「俺、魔王になることにしたんだ」
 嘘。
「だからさ。挨拶に来たんだよ。平和な時代に、さよならだ」
 気づけばリーダーと妖精とスライムは、水のようにいなくなっていた。
 どこにもシミは、見当たらない。
 ここで筆をおく。

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