本作「ピギュピの誕生」は、ウィスラムの台詞を、彼の言語で表記しています。
ウィスプ言語の表記原則は以下の通りです。
カ行~ナ行のa, i→ギ 濁音→ギッ
ハ行~ワ行のa, i→ピ 濁音・半濁音→ピッ
カ行~ナ行のu, e, o→ギギ 濁音→ギュ
ハ行~ワ行のu, e, o→ピピ 濁音・半濁音→ピー
母音・撥音→発音しない。
促音・長音記号→そのまま表記。
小字→上記原則に従う。
固有名詞の場合は、区別するため〈〉等で囲む。
数字は「いち」「に」などのように仮名として扱い上記の表記原則に当てはめる。
それでは翻訳版をご覧ください。
「ひと!?」
「なんだと! すぐに戦闘体勢だ!」
「違う! ひとはいない!」
「えっどういう意味?」
「おまえ、ステラだよな?」
「当たり前じゃねえか」
「おまえが、ひとに、なってるんだよ!」
「お前なに言ってるんだよそんなつまらん冗談……マジだ……」
「…………」
「どうしよう……」
「なんで人に?」
「んなの知るかよ。俺が一番知りてえよ」
「ステラ」
「どうしよう。ウィスラムぅ、俺どうすればいいんだよぉ!」
彼女は縋るようにウィスラムをその腕に抱えた。しかしすぐに離れ、腰を地に落とした。
炎に焼けた手の平を見て、彼女は一層顔を青くする。
それから三日が経った。
「戻らないなぁ」
「そうだなぁ」
「いろいろ試したのに」
「最近さあ、お前の言葉もだんだん分からなくなってきたんだ」
「えっ」
「終わったんだよ。俺も、お前も、俺たちは」
「そんなこと言うなよ」
「ごめんな、ウィスラム。これで、お別れだ」
「ステラ……」
「その名前で呼ばれるのも、もうおしまいだ。おれは、人として生きていくよ」
「行くな、行かないでくれ!」
「さよなら、だ」
彼女はジャングルへと去って行った。そこで見かけた人間たちの集落へ向かうのだという。
ウィスラムは一人になった。共に過ごしてきた同族の彼女は、人になってしまった。
ウィスラムは旅に出た。世界を見てまわった。ときには草原に、ときには山あいの村に。
どこかへ赴くたびに、人と魔物が争っている光景を見た。メテオを奪われたこともあった。
戦場を見るたびに、彼はその火を弱めるのだった。
いつしかジャングル付近に戻ってきていた。しかしジャングルに踏み入る勇気はなかった。
ジャングル東の飛翔の地。そこには傷を負った魔物たちが集っていた。争う意思のない者たちだった。
ウィスラムはここに暮らすことを決めた。
しかし、あの人間たちはここにも現れる。
「あ!」
「どうしたミドリ」
「あのウィスプは」
そして、最悪の形で再会のときは訪れた。