世界がひとつだったなら
この世はどれほど単純だろう
世界がふたつだけならば
この世はどれほど楽だろう
仮定の標示を見過ごして
それが罪になるものか
それに罰がつくものか
ただ、世界が恐ろしい。
世界がみっつだったなら
世界がよっつだったなら
世界がいつつだったなら
世界がたくさんある今は
世界の価値を下げるには
世界の数を増やせばいい
世界の価値を上げるには
世界の数を減らせばいい
世界の数を増やすには
思想をひとつ創ればいい
世界の数を減らすには
思想をいくつか殺せばいい
思想を殺す手段なら
星より多く見つかると
世界と等しく見つかると
そう、君は言った。
これは、僕、井上雄二のテンミリ小説の3作目で冒頭にかいた詩だ。
いや、「かいた」という表現は少しだけおかしい。琴深さんに「書いてもらった」。僕が小学4年生の……終わりのあたりのことだったと思う。
傑作を書いた。
そう思った。文法なんて意味分からなかったが、内容は、最高だと思った。
琴深さんは、どういう気持ちでこの詩を書いてくれたのだろう。「軽く」と、そう琴深さんはあのとき言っていた。
……。
なぜ、いままで気付かなかったんだろう。
あんな三点リーダでは足りない僕の人生が、掻き消してしまっていたのだろうか。
今、起こっているこれ――テンミリキャラがこの世界に飛ばされた事件――は、あの作品。
僕の、3作目とまったくもって同じ展開だ。
目の前で、無力にもあいつらは警官たちに押しつぶされている。
そんなはずはない。あいつらの強さをしらないのか!? あそこまでされても治安維持の人だから、とおとなしくしているようなやつらか!?
そう、それは僕がそう書いたからだ。
そんな矛盾点、当時は気付かなかった。
でも、この後、僕が書いた設定では、そんな無力なやつらに手を差し伸べるやつがいるはずだ。
はずだ……?
いいや、違う。それは僕だ。真っ先に教室を出てあいつらをじかに見ようとした少年……つまり、僕。
一歩、また一歩と。
騒ぎに僕は近づいていく。
「ブロント・ブルース・ミドリ・マゼンダ・テミ・ティンク・リン・クロウ!」
みんな。知らない警官ものっぽもポッチャリもクラスメイトもやくざみたいな人も琴深さんも、あいつらも……僕に注目する。
「この人たちは僕の知り合いです。解放してください。そいつらは僕の仲間です。その手を、手錠をはずしてください!」
きっと、君は言ったんだろう。
世界は、簡単だと。
でも、やっぱり世界は
恐ろしい。
([22]へ続く……)