マゼンダは、かわしたときに、その瞬間に、防御魔法を発動させていた。
つまり、かわしたことは時間稼ぎだったのだ。
「ちっ」
「ふぅ~んだ」
マゼンダは横に跳んで擦り剥いた右腕には目もくれず、手をついた状態で偉そうに誇らしげに顔をなびかせる(この表現分かるかな?)。
「ソード!」
弐の手にはいつのまにか剣が握られている。
「何その魔法……」
質量保存の法則どこいったんだよ。
弐は目にも留まらぬ速さでマゼンダへ剣を振りかざす。
ここで、あいつ登場!
………てことにたいていのアニメではなるのがベタだが、そんなことはなく。
しかし。
一人でも強い、それが集まってできた集団。
ならば、マゼンダは強い。身も、心も。
マゼンダは、刺した。
針を。
そう、そのへんで飛び交っている蜂。その針を、弐の腹に刺した。
弐は突然のことに当然のように驚き、魔法で創られた剣は消えていく。
「質量保存の法則、エネルギー保存の法則。こんな馬鹿げた法則も、いや、何言ってんだろう、私。剣なんて出したことないけど、考えてみれば魔法なんてものは呪文というエネルギーを物質に『替』えてるだけ」
弐の腹からは、蜂の針程度では出るわけのないはずの多量の血液。そのかわりに、マゼンダが創り上げた強い毒が、弐の体をめぐる。
「なら、相手が創り上げた物質を消すには、それをまた呪文を通して他のものに替えればいい。そうでしょ?」
「……、ご名答」
「私、魔法と科学を一緒にして考えるのは嫌いなんだけど……でも、今の私ではそうとしか言えないもんね。それで成功して……」
「いや、少し………その原理はおかしい」
弐は、かすれた声で、それでも涼しい顔を作って言う。
「こんなとこじゃなかったら、いい仲になってたかもな」
「うん。私もそう思ってた。本当はもっと話していたいけど。知ってる? エルフ軍っていって、私達と仲のいい軍がいるんだけど、その人たちは殺生を、敵であろうと殺すのをたいてい許さないの。それは、敵であろうとその人の可能性を絶つのは良くないから。それと……殺さなくても勝てる余裕が出来るくらい強くなれ……。人はね、ううん、生き物はね、自分と同等の人には手加減が効かないんだよ。だから、殺してしまう。殺さないと、殺される。そんな意志がなくても」
「ぐっ…………」
「ごめんね。本当は、もっと仲良くなりたかったのに」
マゼンダは顔を伏せて言う。
「そういう運命なんだよ。俺は、こうなる運命だったんだ」
「運命…………。運命って、何なのさ。運命って、そんなに邪魔なものなの?」
「邪魔? いいや、運命というものは………」
ここで、弐は、血を吐いた。
毒が廻ってきたらしい。
何か。
何か言わなきゃ。
そうマゼンダは焦る。でも、なんて言えば、いいんだろう。
「きっと……また会えるよ」
「ふ……」
「天国なんて、これっぽちも信じちゃいないけど、きっと、君にはまた会えるよ」
がくん、と崩れ落ちる弐。
「ああ………また………会」
弐は死んだ。
それと同時に、周りにブルース・テミ・リン・ティンク・クロウ・ミドリが現れる。
「あれ? なんか集合しちゃった」
ブルースが言う。
「……! マゼンダ。そいつは」
ミドリが叫ぶ。
「マゼンダ、何があったんだ?」
「マゼンダ、怪我してるじゃない。それに血まみれ……すぐ治してあげるからね」
「うん……ありがとう」
マゼンダは、もう動かない体をそっと、抱きしめた。
([37]へ続く)