おりじなる小説MAKER A面


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[45]

 最近出番の少ない人々……。
 もう出なくてもいい? 特に用ないし。
「んなわけあるかー!」
 箱根仁蔵が怒った。
 え~、だってさぁ。今から物語は佳境に入るわけでありましてぇ~、琴深さんはともかく、やくざみたいな碁のアマはいらないんじゃね? とかおもったわけですがぁ~?
「でも、やっぱり脇役でもいいから出たい」
 ふぅん。なら、条件がある。
「条件」
 うん。
「と、言いますと?」
 死んでもらいます。後のほうで。
「はい?」
 あ、「はい」だってさ。案外物分りいいじゃん。じゃ、そろそろ死んでもらうね。大丈夫、面目ぐらいは守っといてやるからさぁ~。
「お、おいこら」
 っじゃ。
 と、いうわけで。
 契約通り、箱根仁蔵のショータイムである。
 はじまりはじまり♪

 ある晴れた、暑くて熱い、夏の一日。
 俺、箱根仁蔵は、回転椅子に腰をかけ、札束を数えていた。
 その事務机の向かい側では、まだ5歳の息子、剣蔵が色とりどりのつみきで何か建物のようなものを築いていた。
 これは、俺の過去の物語であり、物語に関与しえない蛇足の物語である。
 読者は知る必要もなかっただろうし、もしなるとしても、これはいわゆる「番外編」で、物語の深い部分、言い換えれば蛇足の話。
 それが今、季節はずれにも花開こうとしている。
 いつもの俺なら、そんな話は、切り捨てていることだろう。
 だが、ここに出てくる剣蔵を見ると、懐かしくて、儚げで、今の自分の愚かさ、いや、昔の自分の尊さが蘇ってくる。
 これは、そんな話。
 悲しくても、それは終わった出来事で、悲しみなんて時がさらっていった、そんな時。
 俺は、クロウに出会った。
 これは、それまでの、蛇足の物語。
 別に、ページを飛ばしてそのまま次のページへ行っても、何も事実はかわることのない、そんな物語。
 これはそんな、つみきのように、いつかは崩れる物語。
 前置きが長くなった。
 では、始めよう。

 ある晴れた夏の日。
 俺はそのころ、金持ちだった。
 億万長者、そういってもいいくらい、金があった。
 息子の剣蔵にも、妻がいない分、裕福に暮らさせていた。
 妻が――いない。
 そこから、話さなくてはならないのだろうか。
 いや、いい。省略する。
 妻が、いない。ただ、そのときにはそんな事実だけが転がっていた。
 ここは――いわゆる仕事場。
 息子の剣蔵はずっと俺についている。
 ベビーシッターを頼めばいい、そう言われたが、そいつらは信用できない。
 それに、今まで剣蔵がいるということで問題が起こったことは一度もない。
 ならば、そんなもの雇うでもなく、そんな金があれば、それを剣蔵のために使えばいい。
 あれ? ベビーシッターに金を払うのも剣蔵のためになってるのか?
 俺の仕事。
 それは、パチンコ屋のオーナー。
 パチンコ屋。
 そうは言っても、読者が想像するような大きなものではなく、どちらかといえば、昭和のゲームセンターの空気をかもし出すような所で、小さなものだ。
 では、なぜ金持ちなのか。
 それは、俺が宝くじに23回連続で一等を当ててるからだ。
 ……なんて、突飛なことではない。
 そのパチンコ店。
 それこそが、財産を生み出す宝となっているのだ。
 この店があるだけで、俺は毎日100万超えの金を受け取っている。
 そのかわり、この店はある億万長者によって支配されている。
 ジョセラ・クリスチャン。
 その億万長者の名前だ。
「Hi! Mr. Jinzo. You're funny today, aren't you?」
(やぁ、仁蔵さん。今日もあなたは元気ですよね?)
「Oh, you looks beautiful. Why did you wear such a beautiful dress today?」
(あぁ、今日は一段とお綺麗ですね。なぜ今日はそのようなドレスを着ているんですか?)
 片言の英語で喋る。ちなみに、スペルが解らないので英文字で彼女の名を書くことはない。
「Well, I was invited in the party from my friend.」
(私の友人が開催するパーティーに呼ばれたんです)
「It's great. Have a nice day.」
(それは良かったですね。楽しんできてください)
「Ah, Mr. Jinzo. You go there too.」
(ええっと、仁蔵さん。あなたもそこへ行くんですよ)
「Really? But why?」
(本当ですか? 本当だとしても、どうして)
「My friend said, "You must take with your friend who I don't know yet." Don't worry, I'll also take with your son.」
(私の友人に言われたんです、「私のまだ知らないあなたの友達を連れてきてね♪」と。あ、心配はいりません。あなたの息子さんも連れて行きましょう)
 ということで、仁蔵、それと剣蔵は、ジョセラ・クリスチャンとパーティー会場へやって来た。
 ………./…………、すっげえ!/Great!
 前から順番に、仁蔵、剣蔵、ジョセラの感想。
 超でかい。
 なんか護衛? 警備? の人いっぱいいるし。
「Hey! J(以下略)! I'm here.」
(おーい! ジョセラ! ここだよ)
「Lucky! Is it a magic? It's a very large stage!」
(ラッキー! これは魔法なの? とっても広いところね)
 ここで、ジョセラの友人、ラッキー・ムーア登場。
 ついでのように、俺に会釈するラッキー。
「I'm Jinzo. Nice to meet you.」
(仁蔵です。よろしく)
「Nice to meet you too.」
(こちらこそよろしく)
 彼女は、俺の片言の英語を聞いて、丁寧な口調でそう返した。
 あと、そうだ。容姿の説明も入れておかないと。
 ジョセラ・クリスチャン。
 金髪。女性。20代。株のなんとかで成功。一代で億万長者になった、そういうやつ。
 ラッキー・ムーア。
 ブロンヘアー(金髪)。女性。20代。ジョセラよりも背が高く、どちらかというと体育会系を思わせる。
 以上。
 うん、描写下手だな。
 頑張んないと。
「Here.」
(ついてきて)
 そう言うラッキー。
 ついていく俺たち。
 会場のなかを堂々と通っていく。
 あ、あの人この前テレビで見たぞ。あ、あっちにこのまえノーベル文学賞をとった人がいる。あ、そのさらに向こう側には携帯会社の社長もいるじゃないか。
 なんだ? このパーティー。
 俺、ここにいていいのかな?
 つうか、日本でなにやってんの? この人たち。
 手抜き。
 そういわれても、やむをえないかもしれない。
 このページで、この番外編は終わらせる。
 しかし、ご存知の通り字数がまずい。
 あのあと、ジョセラは死ぬ。
 ラッキーが、殺した。
 まるで、そのためだけにこのパーティーを開催したかのように、計画は周到に行われ、ジョセラは殺された。
 恨みでも、持ってたんだろう。
 そのとき、俺は用をたしにトイレ(超高級! 俺の事務室よりも広い)に行っていた。
 だから、その騒動にも気づかなかった。
 逃げ惑う群集に、剣蔵が押しつぶされるまでは。
 圧迫死。
 俺の息子は、押しつぶされて、死んだ。
 他界した。
 だから、それだけの話。
 これは、そんな話。
 詰めて、言う話でもない。
 それから、バックアップが死んだのだから当然パチンコ屋は潰れ、俺は、街を徘徊することになり、やっとの思いで、碁会所のオーナーにまで駆け上った。
 息子の墓は、だからない。
 どこがどういったから「だから」ということになるのかは目下不明だが。
 これにて、この話はなしにしてもらおう。
 どうやらu17の話によると、俺もそろそろそっちへ逝くようだし……。
 荷造りでも、しとくかな。
 そう思いながらも、俺は、今、クロウに会って、雄二に会った、そんな日の後日。
 ラッキー・ムーアのいる、刑務所へ足を運んだ。

(This story lasts [46])

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