おりじなる小説MAKER A面


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[50]

「あと三ヶ月だ」
 ラッキーはそう呟く。
「あと三ヶ月で――やっとここを出られる」
「お前にしては、真面目なことを言うじゃないか。何か、変わったことでもあったのか」
「ああ、あった。世の中、何があるかわからん。生きてて良かったと、今はそう思ってるよ」
 どこか遠くを見ているような顔で独り言のように言うラッキー。
「今頃だが、お前に訊きたいことがあったからここへ来た」
「ああ」
 ラッキーもずいぶんと日本語上手くなったな。なぜか男っぽい、それも妙に人生を達観しているような口調だが……。
 にしてもなぁ……。
 もう50ページか。
 最近ネタ尽きてるしさぁ。蛇足のページ書いたらなんか内容が深くなっちゃったしさぁ。
 グチるな! 作者!
 ……はい。さーせん。
「……? 今のは何のコントだ?」
「コントじゃない」
「あっそう」
 首を傾けるラッキー・ムーア。
 何でこのタイミングでフルネーム書くかなぁ。
 ……なんか。喫茶店での会話みたいだ。何の緊張感も感じない。
 一応ここ、刑務所なんですけど……。
「あなたは」
「うん?」
 やはり遠くを見据えるように斜め上を向くラッキー。
「あなたは、何か変わったことでもあった?」
 まるで彼女(ガールフレンド。純粋な代名詞でない方の意味)のようにそう訊くラッキー。
 金髪も今は儚く見える、か。
「そうだな……俺は、いろいろおもしろいことがあったぞ」
「あっそ」
 訊いてきたのは自分なのに、さもつまらなそうに返事をするラッキー。
 それでも、話を続ける俺。
「クロウっていう小僧と会ってな。そいつをそいつの仲間と引き合わせてやったんだ。そいつがまた、あべこべの設定でよ、ネットのゲームのキャラクターと瓜二つなんだそうだ。いや、というより、同一人物なんだそうだ。その――」
「『テンミリオン』」
 ラッキーはふと、頭に今浮かんだかのように呟く。
「そのゲーム、『テンミリオン』」
「……ああ。たしかそんな名前だったと思う。なんだ。そのゲームって結構人気なのか? じゃ、あのクロウってやつもプチ家出のコスプレイヤーだったのかな」
「三ヶ月……う~ん、長い。なんてことだ。それまでには物語が終わってしまう。だめだ。私は参加しなければならにゃい」
 急に慌てだすラッキー。どのくらい慌てているのかというと、頭を抱え、「な」を「にゃ」って言ってしまうくらい。
「どうしたんだ」
「私は、物語に参加せねばならない。蛇足を物語につなげねばならない。私は――世界と戦わねばならない」
「世界と……戦う?」
「脱獄するか」
 後ろに監視の警官がいるにもかかわらずそんなことを言い出すラッキー。
「よし、決めた!! 私、今夜脱獄する!!」
 後方の警官は呆れ顔だ。そういえばラッキーは口ではいままで「脱獄、脱獄」となんども発していたが、結局はしっかりと真面目に生活を過ごしている。
 減刑がないのが不思議なくらい。
「いや。どうせ私ごときでは失敗して刑が重くなるだけだ。なら………そうだな、うん。おい! 警官」
 急に振り向き後方の、俺にとっては前方の警官を向く。
「今から……真実を話す」
 そうラッキーが言うと、その警官は一瞬驚いたような表情を見せ、胸内ポケットから拳銃……ではなく録音機を取り出し、スイッチを押した。
 それを確認して、またこちらを向くラッキー・ムーア。
「そもそも、ジョセラはなんであんなボロい自称パチンコ屋を買って、毎日100万も払っていたんだと思う?」
「それは……」
 それは……なんども思ったことだ。
 あんないつ崩れてもおかしくない建物をなぜああも大金を出してまでジョセラは買収したのか。
 結局、その答えには行き着いていない。
 ジョセラが生きているとき、何度かそんなことを訊いた覚えもあるが、いつも軽く受け流されてしまっていた。
「なぜなんだ? 俺には、分からない」
「簡単なことなんだ。あのボロ屋が、実はとても貴重な存在だったから。それだけ」
「いや、だからその意味が分からないと言っているんだ。あのボロには、何にもないぞ」
「それは、あなたが気づかなかっただけ」
「じゃあ、一体あれは何だったんだ?」
 ふふ、と笑みを浮かべるラッキー。
「ジョセラはね、お金が大好きな女の子だったの。だから、世界一の金持ちを夢見て、一攫千金の機会を常日頃に狙ってた。そうして、豪快な詐欺を働いたり、株で大儲けしたり、宝くじを当てたりして、いつのまにか世界中の認める大富豪になっていた。そのときジョセラはまだ二十歳だったと思う。それで会社も建てて、まだまだ儲けて、二十二歳の誕生日の日、あなたと出会った。いや、あなたの住むボロ屋を見つけた」
 ラッキー・ムーアは身を乗り出し、それでも小声で話すわけでもなく、後ろの警官に聞こえるように話を続ける。
「あのボロ屋はね、国家機密で保護されてたんだよ」
「は?」
「ふふ。別に信じなくてもいいのよ。ただそういう事実を述べただけ」
「いや……もしそれが本当だったとしても……なぜなんだ?」
 そこで、もとの姿勢に戻るラッキー。
 んで、腕を組む。
 口を動かす。
「あそこには、『乱れ』があったんだよ」
「乱れ?」
「うん。それも継続的な、永遠的な乱れ。それも時空の」
「………時空の?」
 ふふ、と再度笑うラッキー。
「あのボロ屋にはね、『他の世界へ行ける時空の乱れ』が、ずっとずうっと昔から――あったんだよ」
「時空の、乱れだと?」
「そう。乱れ。人は世界にも運命にも逆らえない生物だといままで思われてたけど、それを覆すかもしれない唯一の場所……それがあのパチンコ屋だった。だから、ジョセラは、誰よりも早く行動を起こし、国を相手に、星を相手に、取引を行った。『ここを調べたければ、ここの主である私に金を払え』ってね」
「そんな……」
「だから、私は国連に頼まれて、ジョセラを殺した。まぁ、周囲に疑われないように法律どおりの罰を受けてはいるけどね」
「国連……って」
「あなたは、私の代わりに動いてほしい」
「……………分かった。俺は、そのボロ屋に早速行ってみることにする」
「もうここには来ないほうがいい。おまわりさんも、そのテープを上司に渡したら警官を辞めたほうがいい。自分の身のために」
 俺は席を立つ。善は急げだ。
「疑わないの?」
 今頃になってそう訊くラッキー。
「もう、お前とも会えないな。早速そこへ行くことにする。俺は――お前を信じる」
 つまらなそうな顔をするラッキー。
「気をつけて」
 それだけ言ってラッキー・ムーアは席を立ち、警官と部屋を出る。
 ガラス越しに見るそのラッキーは、本当に、儚く見えた。
 金髪も、まるで迷子の少女みたいに、泣いているようだった。

([51]へ続く)

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