人は世界よりも下等だという仮定が成立するならば、人は世界をどうこうすることはできないはずだ。
さらに、人は世界よりも上等だという仮定が成立するのなら、世界は人をどうこうできないはずだ。
ここでひとつ、例を挙げてみよう。
少年Aがいたとしよう。
そのA君は、学校の帰り道、誘拐される。
前述に、運命の例示として登下校について書いたはずだ。
しかし、A君は一生帰っては来なかった。
運命論に反しているのである。
しかし、ここでさらに例示をしてみよう。
①【原因】ボールを持っていた手を放す。
【結果】ボールは落ちる。
②【原因】ボールを持っていた手を放す。
【結果】ボールは落ちる。
①と②は、原因が同一であるため、結果も同一になる。
しかし、
③【原因1】ボールを持っていた手を放す。
【原因2】そのボールを地に着く前に別の人がキャッチする。
【結果】ボールは落ちる、が、地には着かず、また人の手に戻る。
原因を組み合わせることで、結果は変わる。
これもまた、当然のことだ。
しかし、その当然のことをA君の話に持っていくと。
【原因1】少年Aは学校から帰る。
【原因2】誘拐犯がたまたま少年Aと同じ道を通り、少年Aを目にする。
【結果】少年Aは家には帰らない。
となる。
だから。
原因を繰れば、結果を替えることができる。
世界を繰れば、元の世界へ戻れる。
「こう、竹は考えたわけだ。以上!」
そう言って、バン、と股をはたく好井。
「でも、先生。なぜそれほど……」
「うん? そのへんは僕らのプライバシーてことで」
それをきいて明らかに顔を赤らめる山下先生。
何があった。
「つまり……」
珍しくブロントが深く考え込むように呟く。
「俺らも、いや、俺も。『原因』を操れば帰れるって訳か?」
「ああ、そうだ」
ブロントが顔を緩める。
だが、と続ける好井。
「世界ははたして人間よりも下等か、上等か」
指を組む。
([56]へ続く)