おりじなる小説MAKER A面


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[55]

 人は世界よりも下等だという仮定が成立するならば、人は世界をどうこうすることはできないはずだ。
 さらに、人は世界よりも上等だという仮定が成立するのなら、世界は人をどうこうできないはずだ。
 ここでひとつ、例を挙げてみよう。
 少年Aがいたとしよう。
 そのA君は、学校の帰り道、誘拐される。
 前述に、運命の例示として登下校について書いたはずだ。
 しかし、A君は一生帰っては来なかった。
 運命論に反しているのである。
 しかし、ここでさらに例示をしてみよう。
 ①【原因】ボールを持っていた手を放す。
  【結果】ボールは落ちる。
 ②【原因】ボールを持っていた手を放す。
  【結果】ボールは落ちる。
 ①と②は、原因が同一であるため、結果も同一になる。
 しかし、
 ③【原因1】ボールを持っていた手を放す。
  【原因2】そのボールを地に着く前に別の人がキャッチする。
  【結果】ボールは落ちる、が、地には着かず、また人の手に戻る。
 原因を組み合わせることで、結果は変わる。
 これもまた、当然のことだ。
 しかし、その当然のことをA君の話に持っていくと。
 【原因1】少年Aは学校から帰る。
 【原因2】誘拐犯がたまたま少年Aと同じ道を通り、少年Aを目にする。
 【結果】少年Aは家には帰らない。
 となる。
 だから。
 原因を繰れば、結果を替えることができる。
 世界を繰れば、元の世界へ戻れる。

「こう、竹は考えたわけだ。以上!」
 そう言って、バン、と股をはたく好井。
「でも、先生。なぜそれほど……」
「うん? そのへんは僕らのプライバシーてことで」
 それをきいて明らかに顔を赤らめる山下先生。
 何があった。
「つまり……」
 珍しくブロントが深く考え込むように呟く。
「俺らも、いや、俺も。『原因』を操れば帰れるって訳か?」
「ああ、そうだ」
 ブロントが顔を緩める。
 だが、と続ける好井。
「世界ははたして人間よりも下等か、上等か」
 指を組む。

([56]へ続く)

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