「ふぅ」
やっと着いた。ジョセラの家だ。
家というより、豪邸?
金持ちのあいつは、とにかく金遣いが荒い。
入り口を探すのに苦労した。
鍛えたはずの体が妙にだるい。
私、ラッキーは駆け出しの作家の家を出て、とりあえずジョセラの家へ行くことにした。
いくあてもないので、当然といえば当然のことだが。
無駄にでかい液晶画面付きのインターホンを押しながら、異常にでかい門を見上げる。
「何度来てもこりゃ迷うな」
はーい、とジョセラが出る。
「あ、ラッキー。今開けるね」
顔パスで重い扉が開く。
ギ、ギィと奥手に開く。
広大な庭。一面の芝生。
見慣れた光景だが、どうしても感嘆せざるを得ない。
「やっほ~」
ジョセラがじきじきにお出迎え。
「シャワー借りるぞ」
あの馬鹿でかいシャワーは、うん。気に入っている。
「ねぇ、太った?」
「む。そう見えるか?」
「ううん。なんとなく言ってみただけ」
で、これからどうしようか。
「ラッキー。いい知らせがあるよ」
「いい知らせ?」
うん、とジョセラは書類を私に渡す。
「戦争だよ」
数枚の書類には、それぞれ人の写真と、経歴が書かれていた。
「戦争?」
「うん。その人たち全員と戦うの。世界を壊すために」
ぴく、と体が反応する。
極力興奮しないで、濡れた金髪を白いタオルで拭きながら訊く。
「誰が創造主だ?」
「井上雄二」
ぴく、とまた体が震える。
「井上――雄二?」
「うん。面白いね。ラッキーがとっくに壊したはずなのに、独立して世界として確定しちゃった」
嘘、だろ?
心を何かが走る。
「この世界に数人来ちゃったみたい。乱れのときに」
その――リストか。
「あ、誤解してるね。それは世界構成の糧となっている人たち――ラッキーの同業者のリストだよ」
「同業者?」
「んじゃ、ひとりずつ説明するね。
まず、山下久子。
20代。教員。
呼び名は『殺害人』
雄二を竹から保護していて、呪いを操れる。
次に、三好寛文。
年齢不詳。教員。
呼び名は『殺擱主』
雄二を竹から保護していたけど、山下久子と衝突。今は行方を眩ましているわ。
山下久子は彼を捜索中。
最後に、関野琴深。
大学生。詩人志望。
これはちょっと難があって――軽く万単位で人を殺している。殺戮よ。一方的な殺人。
こいつに抗えた者はいない。
瞬時に自分の世界を創り、死体を片付ける必要をなくすためにそこで殺す。
こいつは……やめといたほうがいいかも。
ちなみに呼び名は『殺戮者』」
ふむ。
同業者、か。
世界殺し。
「分かった。んじゃ、一番近い琴深から片付けるよ」
それに驚くジョセラ。
「ちょ、ちょっと待った!」
「うん?」
振り返るラッキー。
「♥」
「?」
「し、仕事を頼みたいの!」
ジョセラは言う。
「ジョセラ・クリスチャンという殺害者を――殺してほしい」
ジョセラはぱっ、とナイフをラッキーの首目掛けて流す。
いかにも素人な手つき。
軽く腕を掴む。
気付けば――
ジョセラは泣いていた。
「私を――私を殺してよぉ」
私は、とりあえず今までの経験上、ジョセラを無視して琴深の家へ向かった。
(ラッキーの視点)