おりじなる小説MAKER B面


トップへ戻る目次に戻る


8.へ←→10.へ

9.

「ふぅ」
 やっと着いた。ジョセラの家だ。
 家というより、豪邸?
 金持ちのあいつは、とにかく金遣いが荒い。
 入り口を探すのに苦労した。
 鍛えたはずの体が妙にだるい。
 私、ラッキーは駆け出しの作家の家を出て、とりあえずジョセラの家へ行くことにした。
 いくあてもないので、当然といえば当然のことだが。
 無駄にでかい液晶画面付きのインターホンを押しながら、異常にでかい門を見上げる。
「何度来てもこりゃ迷うな」
 はーい、とジョセラが出る。
「あ、ラッキー。今開けるね」
 顔パスで重い扉が開く。
 ギ、ギィと奥手に開く。
 広大な庭。一面の芝生。
 見慣れた光景だが、どうしても感嘆せざるを得ない。
「やっほ~」
 ジョセラがじきじきにお出迎え。
「シャワー借りるぞ」
 あの馬鹿でかいシャワーは、うん。気に入っている。

「ねぇ、太った?」
「む。そう見えるか?」
「ううん。なんとなく言ってみただけ」
 で、これからどうしようか。
「ラッキー。いい知らせがあるよ」
「いい知らせ?」
 うん、とジョセラは書類を私に渡す。
「戦争だよ」
 数枚の書類には、それぞれ人の写真と、経歴が書かれていた。
「戦争?」
「うん。その人たち全員と戦うの。世界を壊すために」
 ぴく、と体が反応する。
 極力興奮しないで、濡れた金髪を白いタオルで拭きながら訊く。
「誰が創造主だ?」
「井上雄二」
 ぴく、とまた体が震える。
「井上――雄二?」
「うん。面白いね。ラッキーがとっくに壊したはずなのに、独立して世界として確定しちゃった」
 嘘、だろ? 
 心を何かが走る。
「この世界に数人来ちゃったみたい。乱れのときに」
 その――リストか。
「あ、誤解してるね。それは世界構成の糧となっている人たち――ラッキーの同業者のリストだよ」
「同業者?」
「んじゃ、ひとりずつ説明するね。

 まず、山下久子。
 20代。教員。
 呼び名は『殺害人』
 雄二を竹から保護していて、呪いを操れる。

 次に、三好寛文。
 年齢不詳。教員。
 呼び名は『殺擱主』
 雄二を竹から保護していたけど、山下久子と衝突。今は行方を眩ましているわ。
 山下久子は彼を捜索中。

 最後に、関野琴深。
 大学生。詩人志望。
 これはちょっと難があって――軽く万単位で人を殺している。殺戮よ。一方的な殺人。
 こいつに抗えた者はいない。
 瞬時に自分の世界を創り、死体を片付ける必要をなくすためにそこで殺す。
 こいつは……やめといたほうがいいかも。
 ちなみに呼び名は『殺戮者』」

 ふむ。
 同業者、か。
 世界殺し。
「分かった。んじゃ、一番近い琴深から片付けるよ」
 それに驚くジョセラ。
「ちょ、ちょっと待った!」
「うん?」
 振り返るラッキー。
「♥」
「?」
「し、仕事を頼みたいの!」
 ジョセラは言う。
「ジョセラ・クリスチャンという殺害者を――殺してほしい」
 ジョセラはぱっ、とナイフをラッキーの首目掛けて流す。
 いかにも素人な手つき。
 軽く腕を掴む。
 気付けば――
 ジョセラは泣いていた。
「私を――私を殺してよぉ」
 私は、とりあえず今までの経験上、ジョセラを無視して琴深の家へ向かった。

(ラッキーの視点)

8.へ←→10.へ


トップへ戻る目次に戻る