すっかり寒くなった――候の程、兄上はいかがおすごしでしょうか。
僕は今中国の四川というところにいます。
では、風邪にお気をつけて。
そんなメールが俺の弟、井上雄二から来た。
弟たち俺の家族は現在冬休みで、中国に旅行に行っている。
そんなこと百も承知なのに、そんなこと書いて字数稼ぎやがって――
俺は井上名言。
「名言」と書いて「ブロント」と読む。
単位の関係で、ちょっとばかし日本に残ることになった話は――まあやめておこう。
俺は今弟が書いたテンミリ小説19作目「おりじなる小説MAKER」とやらを読んでいる。
弟の友達の関野洋一という少年が語った話を、そのまま記したらしい。
[3]を読む。
ブロント……これが俺と同姓同名の勇者か……。
ナントカ基地――?
何かが脳裏を走る。
突っ込み担当の蒼いアーチャー
緑髪の男勝りな女性
幸薄の鎧
関西弁の格闘家
温厚な金髪少女
その兄である白髪
赤毛の魔法使い
小さな妖精
――
頭が痛い。これは何だろう。なにかがこみ上げてくる。
こんな稚拙な文章に、俺は何を感じるというのだ。
「う……」
吐き気がする。
頭が熱い。頭が痛い。頭が割れそうだ。頭が――
ブルース。
なんだ? さっきのキャラの名前が――
ミドリさん。
なんで「さん」付けなんだ!?
痛みが層を増す。
そして――そして。
ページはクライマックスへ。[56]では、登場人物たちが今までの記憶をなくされて、ブロントという勇者は行方不明になる――
いや――
行方不明に――なった?
「うぅ……」
痛い。
ブロントは行方不明になった。
それはなぜか。
この小説では、弟が書いたこの小説では、ブロントの記憶が改変されていて、井上雄二という少年の兄に――
この物語は、泣きながら関野洋一が語った話だ。
「なあ。皆何も覚えてないのか!?」
洋一はいきなりそう言った。
雄二と――俺に。
何も――覚えていないのか。
俺は――何かを――
俺の名前、名言――ブロント――
これは、ただの偶然か?
それはそれは良く出来た偶然だな。
ジリリリ……
電話が鳴る。
しかたないので、受話器をとる。
「もしもーしっ。リンちゃんだぞ☆ あれ! ごめんなさい間違い電話です……」
リン――?
フラッシュバック。
頭が溶ける、融ける、熔ける、いや、「解ける」
俺は――ブロントだ。
「はは……」
つい笑みがこぼれる。
「さあ、帰ろう」
ブロントは――家を出た。