おりじなる小説MAKER B面


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6.

 すっかり寒くなった――候の程、兄上はいかがおすごしでしょうか。
 僕は今中国の四川というところにいます。
 では、風邪にお気をつけて。

 そんなメールが俺の弟、井上雄二から来た。
 弟たち俺の家族は現在冬休みで、中国に旅行に行っている。
 そんなこと百も承知なのに、そんなこと書いて字数稼ぎやがって――
 俺は井上名言。
「名言」と書いて「ブロント」と読む。
 単位の関係で、ちょっとばかし日本に残ることになった話は――まあやめておこう。
 俺は今弟が書いたテンミリ小説19作目「おりじなる小説MAKER」とやらを読んでいる。
 弟の友達の関野洋一という少年が語った話を、そのまま記したらしい。

 [3]を読む。
 ブロント……これが俺と同姓同名の勇者か……。
 ナントカ基地――?
 何かが脳裏を走る。

 突っ込み担当の蒼いアーチャー
 緑髪の男勝りな女性
 幸薄の鎧
 関西弁の格闘家
 温厚な金髪少女
 その兄である白髪
 赤毛の魔法使い
 小さな妖精
 ――
 頭が痛い。これは何だろう。なにかがこみ上げてくる。
 こんな稚拙な文章に、俺は何を感じるというのだ。
「う……」
 吐き気がする。
 頭が熱い。頭が痛い。頭が割れそうだ。頭が――
 ブルース。
 なんだ? さっきのキャラの名前が――
 ミドリさん。
 なんで「さん」付けなんだ!?
 痛みが層を増す。
 そして――そして。
 ページはクライマックスへ。[56]では、登場人物たちが今までの記憶をなくされて、ブロントという勇者は行方不明になる――
 いや――
 行方不明に――なった?
「うぅ……」
 痛い。
 ブロントは行方不明になった。
 それはなぜか。
 この小説では、弟が書いたこの小説では、ブロントの記憶が改変されていて、井上雄二という少年の兄に――
 この物語は、泣きながら関野洋一が語った話だ。
「なあ。皆何も覚えてないのか!?」
 洋一はいきなりそう言った。
 雄二と――俺に。
 何も――覚えていないのか。
 俺は――何かを――
 俺の名前、名言――ブロント――
 これは、ただの偶然か?
 それはそれは良く出来た偶然だな。
 ジリリリ……
 電話が鳴る。
 しかたないので、受話器をとる。
「もしもーしっ。リンちゃんだぞ☆ あれ! ごめんなさい間違い電話です……」
 リン――?
 フラッシュバック。
 頭が溶ける、融ける、熔ける、いや、「解ける」
 俺は――ブロントだ。
「はは……」
 つい笑みがこぼれる。
「さあ、帰ろう」
 ブロントは――家を出た。

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