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終わりの朝に臭いくちづけ

01

 目覚めるとそこは草原だった。背の低い草が鼻をくすぐる。上半身を持ち上げて、周りを窺う。不規則に並ぶ草が、一面に広がっている。彼女は手をついて、腰を持ち上げた。足元がふらつく。思っていたよりも長い間、眠っていたのかもしれない。
 ここはどこだろう。
 彼女は空を仰いだ。雲ひとつなければ、太陽がどこにあるのかも分からない。しかし包まれるように明るい。彼女は自分の体を抱きしめた。背中に寒いものが伝う。
(私はなぜこんなところに……。確か、さっきまでテミとココアを飲んでいて)
 交差させていた腕を持ち上げて、頭を抱えた。ここはどこ。どこなの。見知らぬ土地。太陽の見えない。ぼんやり明るい。夢のなかのような。
(あっ。そうか。ここは夢のなかなんだ)
 彼女はすかさず自分の頬をつねった。つまむだけでは痛くない。ただ、つままれている、という感覚だけがあった。今度はその指を立ててみる。爪が食い込んで、痛い。痛い。
 ここは夢のなかではないのか。しかし、痛い、と感じることがなぜその証明になるのか。彼女は座り込んだ。草が彼女のすねをくすぐる。無造作に地面を蹴り上げた。むなしく靴がかすれるだけだった。
(とにかく、ここがどこだか、見極めなきゃ……)
 彼女は、自分の経験を思い返す。こんな経験、前もあったことだと思い出す。魔王軍の敵に連れ去られて、気付いたときには檻のなかだった。あのときと今は、おそらく同じ状況なのだろう。彼女はそう考える。自分はなにものかに拉致されたのだ。
 彼女は起き上がって、ふらつく足取りではあるものの前へ前へと進んだ。草原が絶え間なく続いている。いらいらして力を込めて踏みつけながら歩いた。数歩進んだときには疲れてやめていた。
 太陽はいくら探しても見えず、そしていくら歩いても、明暗に変わりはなかった。まるで電灯で一定の光を出し続けているような、規則的な光を感じた。
 歩き、歩き、疲れて休もうと思って足をとめた。振り返ってみるが、景色も一定で、どれだけ歩いたのかまったく目算がきかない。振り返ったまま溜息をついた。もしかしたらさほど進んでいないのかもしれない。
 振り返らせていた顔を戻すと、目の前に小屋が現れていた。

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