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07

 マゼンダは額の汗を拭った。自分の炎で燃えるようなことはないが、それによって生じる熱によって、汗をかくことはある。いまがその状況だ。
 扉は綺麗そのもので、燃えるどころかシミさえキズさえつかない。
 マゼンダは小さく舌打ちをしてから、座り込んだ。太ももが汗のせいで気持ち悪い。マゼンダは無造作に腿をはたいたが、すぐにやめた。
 扉を壊すことは、マゼンダの力では不可能らしい。炎がまったく利かないのだ。あるいはそもそも、目の前に扉はないのかもしれない。これはある種の幻覚なのかもしれない。
(あいつも言っていた。ここは夢のなかなんだって……)
 夢のなかなのならばなんだって自分の思い通りにことが運びそうなものだが、ここは、夢のなかでも特に不自由に特化したエリアなのだろう。マゼンダは、もはや自身が拉致されたことに、確信を持っていた。自分がなにごとかの事件に巻き込まれているのだと。
(きっとあの男も)(拉致されたんだ)
 マゼンダは男が言っていたことを、思い返して頭の中で整理した。二人はなにものかに捕まり、この不自由の空間に閉じ込められ、殺し合いをさせられている。どちらかが死ぬたびに扉が現れ、空間が仕切りなおしになり、殺し合いが再開する。そして先に相手を五回殺したほうが、勝者となるのだ。勝者となればどうなるのか、戻れるのか、男は話していなかった。彼にも分からないのだろう……。
 彼は以上の概要を、一瞬にしてまるでもとからあったように理解したと言っていた。初回の殺し合いで負けたマゼンダは、以降死ぬごとに記憶がリセットされ、この拉致の内容を忘れてしまうとも。
 そしてマゼンダは気付いた。
(もし、彼の言っていることが、なにもかも嘘っぱちだったとしたら……?)
 悪寒のようなものが這い上がってくる。なにを信じていればいい? 彼か? それともこの疑心暗鬼の心か?
 マゼンダは座り込んだまま地面を殴った。手に痛みが走る。痛い。痛いというのに本当にここは夢なのか。夢のなかで痛みは感じるのか。いままで感じたことはあったか。この人生で、ただの一度でも、痛みを感じたことがあったろうか。
 いや。もしかしたら、この夢こそ、その一回目の痛みかもしれないじゃないか。
(どっち)(どっちなの)
 マゼンダは立ち上がった。どっちなの。
 把手を握ったのは、その答えを直接聞いて確かめたかったからなのかもしれない。

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