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11

 以上の合意のもと、二人は休戦状態、あるいはハーフタイムとなり、この空間の研究に行動を移した。といっても、調べられることはさほどなく、地面をどこまでも掘ってみたり、男が浮遊魔法で限界まで飛んでみたりしたのだが、一向になんの変化もなく、ただ草原と土、果てしない空が続くだけだった。この限りない広さと閉塞感は、夢の空間の特徴と、上手い具合に合致していた。痛みを感じたりはするというのに、空間的な特徴は夢そのものだった。可能性の空間だ。
 空間の調査が終わったあとは、ぶらぶらとなにもせず、男が魔法でこしらえた家屋でごろごろしていた。もし誰かがこの様子を監視しているというのなら、その退屈な情景に、怒り出してなにごとかアクションを起こしてくるかもしれない。……しかし、三度寝て起きるほど時間が過ぎても、なんの変化も見受けられなかった。
 食糧の心配はなかった。腹が減らないのだ。痛覚はあるというのに、空腹はない。これは戦闘に集中させるためなのかもしれない。夢のなかであるという根拠のひとつにもなりえた。人は夢のなかではものを食すことはもともとできないのだ。
 それからだらだらとした時間が流れた。マゼンダは、自分が着ている服が、目覚めたときからなんの変化も起きていないことに、今更ながら気がついた。熱で少し縮んでいる様子なども、そのままのようだった。このことから、扉をくぐる際、人間の身の回りのものは継続されることが予想され、そのことから二人はこれまでのことを紙に記すことにした。不安定ではあるが記録のようなものだった。それは研究の一助となった。なにごとも現象を整理する紙とペンは必要である。ちなみに紙やペンは、思念エネルギーを質量に変換して作ったものだ。
 二人による共著はのろい四足歩行で、時間をかけて制作された。時間は余るほどあるようであった。
 ひととおり記録が済むと、自然と二人の話題は、ここに連れてこられる前のことに向けられた。マゼンダは自分の「仲間」たちの話を、彼に聞かせてやった。同じ町で生まれ育ち、ともに冒険に出た三人の友の話。その後、破壊された村で出会ったカンフー少女の話。魔王軍の手下に捕らえられていた妖精の話。魔王のもとで育ち、幼馴染の腹違いの兄でもあった少年の話。ひとつの土地をめぐって長年争ってきた、緑色の女たちと、薄水色の男たちの話……。マゼンダの話は豊富で、男を飽きさせることがなかった。
 マゼンダは男の話も聞きたがった。男ははじめは渋ったが、威力のない炎を突きつけられては、答えるより他なかったし、男自身、心のどこかでは話してみたくもあった。
 自分の孤独な生涯を。

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