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05

 男が死んだという事実に気付くまで、マゼンダはわりと長い時間を要した。なぜならば、男が突然消えたからである。消えた。見えなくなった。いなくなった。この世界では、死亡すると同時に体が消える――いや、そもそもこの世界には体がない? マゼンダはようやくそのあたりにまで思考を辿らせたが、それ以上論点が進むようには思えない。
 考えている間に、さきほどまで男が語っていたところに、扉のようなものが現れていた。それはただ扉があるのみで、無機質な色をしている。取っ手が大きく、掴みやすいというより手の平に収まりにくそうだった。もしやこの扉の奥に、あの男が潜んでいるのでは――。マゼンダは考え、恐る恐る取っ手を握った。
 扉の向こうは、裏側ではない。どこか別の場所に繋がっているのだろう。この魔法はマゼンダも見覚えがあった。空間歪曲移動魔法(ワープ)がある現在では、珍しい古典魔法だ。亜空間を発生させ、その空間に入り、その亜空間の座標を動かすことで、飛躍的に移動時間を短縮する魔法だ。亜空間とは、要するに「想像」のことだ。想像の領域では、肉体と精神の内包関係が逆転する。そうすることで、「想像」という実在しない空間に入り込むことができるのだが……ワープが発明されてからは教科書だけで見るものになってしまった。
 その魔法が、なぜここに。
 扉をくぐった。目の前にあの男がいた。
「うわっ」
「わっ」
 互いに驚いて後ずさりする。扉が消えていることにすぐに気付いた。男から距離をとりながら、周りの様子を確認する。あの草原。背の低い草が広がる、あの草原だ。変わらない場所。ここは。
「どうだ。理解できたか。赤毛のマゼンダ」
 目の前の男には、火傷の痕などまったくない。気取ったポーズをしていた。
「はあ? なんで生きてるのなんで死んでないのなんなのバカなの死ぬのなんなの」
「落ち着け……とりあえず落ち着け。主人公に逆転された悪役みたいな台詞はとりあえずやめろ」
「…………」
 男は言う。風が吹いていないのに短い髪が揺れていた。
「勝負だ」

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