お茶が喉をくだってゆく。なぜだかマゼンダは正座をしていた。それはこの部屋が畳敷きで、奥ゆかしいかおりを感じ取ってしまったからなのかもしれない。
マゼンダは、部屋を見回した。これで幾度目かであるが、この質素な部屋で、特に目に入ってくるものはなかった。ただ畳と障子があるのみで、電灯さえもついていないのである。だからこそむしろ、マゼンダは部屋を幾度も眺め回すのだ。
障子が開いた。
入ってきたのはあの男だ。短い髪。整った顔立ちをしていることは、マゼンダの心中では高評価だった。
「それで、ここ、どこなの」
「ここ? ここは戦場さ」
「さっきからそればかり」
「だって戦場なんだからね」
男は真面目に答える気がないのか、マゼンダの質問をすべて適当にあしらっている。マゼンダは徐々に苛立ちを募らせていた。もともと気は短いたちなのだ。
小屋のそとはまだ明るいのだろうが、障子を閉めてしまうと、ここは途端に暗くなる。光が届かない。窓がないかもう一度見回してみれば、すだれのようなものが見受けられた。
「ここ、どこ」
マゼンダは質問を諦めない。
「だからね、ここは、戦場、さ」
しかし男も取り合わない。とうとう堪忍袋の緒が切れた。
マゼンダは咄嗟に立ち上がり、攻撃魔法体勢に入った。片手を開き閉じまた開く。徐々に手の平に熱が篭っていた。
「そ、そう怒るなよ……」
男は苦笑いしつつも、後ろ手に障子を開け、あとずさりしている。
「ここは、どこ」
着火。火の玉。水。蒸発。怒った怒った。男はそれでも余裕そうに。
「ここは夢のなかだ」
男が言った言葉に、マゼンダは、今度こそその炎を男に突きつけた。