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06

 先に動いたのは男のほうだった。マゼンダのほうへ詰め駆ける。彼女も遅れて横に跳んだ。真正面からぶつかるつもりはない。横に跳びながら呪文を唱えた。マゼンダの正面の空間から、幾多もの炎の針が、現れ、男めがけて飛び出る。それらは無慈悲に突き刺さった。
 と思う間もなく、背後にまわった男がマゼンダの背中へ手を伸ばした。針が刺さったはずのものはエネルギーの丸太に変わり果てていた。
(身代わり……!)
 咄嗟に背後に手の平をかざす。マゼンダの専門魔法は炎だ。呪文もなにもいらない。手から火の玉が飛び出る。しかし防御魔法に防がれた。
(速い)(来る!)
 危険を感じて、周囲を一気に燃え上がらせる。マゼンダの行動は正解だったようで、男は髪の毛を焦がした。炎から距離をとって毛先をつまむ。じりじりになっていた。
 マゼンダの顔のうえで、炎がうみだした影が躍っていた。不敵に唇の端を持ち上げる。彼女を取り巻く炎が、彼女に自信感を与えていた。情熱の炎。躍動する心。
 指の関節が張ったように痛い。男の姿がわかる。手の平をかざす。痛みの炎。男へと一直線に。飛び出して。動き出して。頬を掠めて。詰め寄った男の右手にはいつの間にか刃物が握られていた。首をめがけて――。
 マゼンダの炎は決して手の平だけから出るものではない。マゼンダの首元から幾重もの炎が発散した。火の粉が飛び散る。火の虫はてんでばらばらの大群だ。男はマゼンダの炎の出し方に、いまだ慣れていなかったらしい。黒こげになった男は、徐々に霧となって消えてゆく。
 …………。
(終わった?)(勝った)(勝てた)
 途端、吹き飛ばされる体。赤毛が乱暴に振動した。尻餅をつきながら呻き声をあげる。あの男は確かに死んだはずだ。一体なにが。
 ――目の前には扉があった。
 いつのまにか出現していた。あの扉に押されたのだろうか。マゼンダは急に背中をなぞるものを感じた。火の粉はいつの間にやら消えていて、ただ酸素を消費した熱だけが取り残されて行き場を探している。
(この扉をくぐれば――)(この扉をくぐれば?)
 どこに着くというのだろう。
 マゼンダは顔を伏せた。

[3-3]


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