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09

「いきなりひどいじゃないか!」
 扉をくぐるなり、男の怒声が殴りかかってきた。マゼンダはそれを炎で制そうとするが、男は怒っていながらも冷静を保っていたようで、簡単に防御魔法で防がれてしまう。これまでの戦いからも推察されるように、彼の魔法は守りに徹している。攻撃は力業ばかりだ。
(まあ私は、なにもかも炎なのだけどね)
「これでマッチポイントだけど? どうする?」
 マゼンダは胸を張った。男が意味深に吹き出す。むっとなって炎をぶつけた。もろに頭にぶつかったが、恥ずかしさの炎、は見せかけで威力がない。
「どうするもなにも……こちらとしては休戦願いたいところだけどね。そうはいかないだろう? おれが黒幕かどうか、きみは分からないし、それを確かめるすべもないのだから……。きみはどちらにしたっておれを殺すしか方法はない。その通りだよ」
 マゼンダは頬を膨らませてから、どかっと座り込んだ。
「もうひとつ、ないでもないんじゃない?」
「……というと?」
 マゼンダはそっぽを向きながら、腕を組みながら、唇を動かした。
「あんたが、あいのぷろぽーず、をすれば、私はあんたをころさない、かもしれないじゃない」
 細々と発音されたその言葉に、男は目をしばたたく。本心から彼には意味が分からなかった。
「忘れたの? 自分の言葉のくせに……。仲間になろう、と言っているの」
 マゼンダは頬を赤らめることもなく、しれっとそう言った。彼女の緑色の瞳が、まっすぐと彼を射る。男はいつものように軽い苦笑いを返すことしかできなかった。それはあるいは、苦笑いではなく、彼の日常的な笑顔なのかもしれない。
「仲間になったとして」
 男は言う。
「おれを信じることが、できるというのか?」
「信じるか信じないかは、仲間というものにとって、関係ない。ただ互いの利害が一致したときに、『仲間』は成立する。あなたがなにを考えているかなんて、思念感受能力のない私には分からない。でも、それはあんたも同じでしょ。相手がどの魔法を使えてどの魔法ができないかくらいは、見抜けるんだから。だから……」
 マゼンダは顔を伏せる。背の低い草が、風もなく揺れている。
「それは詭弁だ」
 マゼンダの提案に、しかし男は乗らなかった。

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