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15

「誰、あんた。ここどこよ」
「無粋な質問だな。おれはきみの敵、ここはきみを拉致して閉じ込めている空間。それだけだよ、マゼンダ」
「……、私の名前」
「知ってるさ。だって敵だもの」
 マゼンダが地面を蹴った。足から炎が噴射して、ジェットのように加速する。男が避けようとしないので、マゼンダは警戒して攻撃せず、男から離れた。バランスが崩れて草原に倒れてしまう。隙を作ってしまった、と、一瞬戦慄し、体中から炎を発する心準備をするが、攻撃はなかった。
「……あんた」
(違う)(これはきっと罠)(前もあった)
「速いね。マゼンダ。速くて見えなかったよ」
(一瞬でやる)(やれる)(私ならできる)
「うるさい!」
 啖呵を切って飛び出した。両の拳を包む炎が、黒く、燃え盛る。
(黒い、炎!)
 炎が周囲の光を吸収する。しかして太陽の見えないこの空間は、無尽蔵の光が減ることはない。炎がもろに男の腕をもぎ取った。パンチのまま前のめりになりながら、宙で一回転、煙をくすぶらせながら踵落としを傷口に振り落とした。
「ぐっ……」
 男が血を吐いた。彼女にかかった血液が、瞬時に蒸発する。
(弱い……!)
 足をかけ。組み伏せ。頭を掴んだ。
「は、ははっ。強いんだな、マゼンダ。すごいよ」
 血とともに流れ出る声が、マゼンダの耳を煩わせた。
 男は全身炎に包まれた。軽い罪悪感が、マゼンダの心に突き刺さる。まるで相手に相応しくないザコだった。戦闘意志が欠けている。捕虜にしたほうが良かったかもしれない。
 男の丸焦げになった死体が、草原のうえに崩れ倒れる。草がかすかに燃えている。
 ところどころに、なにか書かれているらしい紙がばら撒かれてあった。マゼンダは気になってそれらを拾い集めるが、どれもマゼンダの炎のせいで、とても読めるものではなくなっていた。
 興味を失くして、紙を捨てると、その夢のような空間に、穴ができていることに気付いた。ぽっかりと時空にヒビが入ったような、穴。それは明らかに出口だった。
 マゼンダは、迷うことなく出口へと進んでゆく。仲間たちが彼女を探しているかもしれない。早く戻ろう。
 最後にちらっとだけ、くすぶった死体を振り返った。どこかで見たような気がして、だけれどどうせ気のせいだと、頭を横に振る。
 こうしてマゼンダの不可思議な体験は、幕を下ろした。

[5-4]:The game is over.

 テミが淹れてくれたココアのなかに、睡眠薬が入っていただなんて、マゼンダは知る由もない。


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