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13

 朝が来た。
 朝も夜もないこの夢のなかでは、睡眠から目覚めたときが、朝、ということになる。
 考えてみれば、夢のなかだというのに、休息として睡眠をとらねばならないなんて、不思議なことだ。男はそのことについて、少し前から気付いていたが、今更ここが夢であることを否定するのもばかばかしいので、マゼンダには黙っていた。
 隣で、マゼンダが静かな寝息を立てている。
 男はマゼンダの唇に、自分のを重ねた。そして寝起きのくちづけのあまりの臭さに、悶絶するように寝返りを打ってから立ち上がった。
 ――私が、あなたに新しい名前をつけてあげる。
 マゼンダは以前、そう言ってくれた。嬉しい言葉だったが、男はそれを拒否した。――そうだね。私はあなたの親ではないのだから……。彼女の言葉に、棘はなかった。
 男は家屋のあった辺りの草を掻き分け、これまでのことを記録した用紙を寄せ集めた。それを持って、またマゼンダの横であぐらを掻く。
 マゼンダはぐっすり眠っているようだった。男はもう一度彼女にキスをした。先ほどよりは臭くなかった。
 おれの、家族。
「今度は、救ってみせるから」
 夢のなかで睡眠をとる違和感のほかにも、男には、マゼンダに隠していることがあった。それは、たとえば、彼は借金なんて抱えていないということ。彼を騙した中年男は、本当に大金を持っていて、確かに前金はもらっていたということ。しかして、男の計画が、彼に与えられた仕事というものが、殺人だったのだということ。
 この空間は、その中年男が計画の一環で作った、仮想空間(げんじつ)なのだということ。
 マゼンダは強い。なにも知らない彼女なら、きっと、造作もなくおれを殺してくれるだろう。
 男は空を仰いだ。この恒常的なぬくもりは、中年のあの男が、あるひとりの人間によって殺められ、乗っ取られた現在でも、変わらずに稼動している。
 男はふと思いついて、紙に、その女性の、覚えている限りの特徴を下手な絵とともに書き記した。それがなんの役に立つかは分からない。けれど、マゼンダの今後のために、もしかしたら参考になるかもしれない――。
 男はマゼンダの寝顔をもう一度ながめ、撫でて、それから彼女の心臓に、魔法の剣を突き刺した。

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